茫洋とコンビナート

なくした海に来て、欠伸が喉を落ちていく音。冬に徳島に行けそうである。嬉しい。海の近くの町に住んだのは、徳島が初めてだった。 1,2分ほど歩けば汽水エイが泳いでいて、自転車で少し行けば、靄の向こうに和歌山を臨む紀伊水道の、...

6ペンスに飛ばされた

ざわめきが遠ざかり、どれだけ耳を澄ませても骨の軋みしか拾えない。Sondre Lerche を聴きながらキーボードをたたいている。ノルウェーで彼が、どのような待遇にあるのかは全く知らない。顔が良いから、出たての頃は、アイ...

一条の光の

ナメクジの這いまわった跡はいつもどこかで途切れている。彼らの動く速さを考えると、私がその存在に気付くほんの数秒前から蠕動を始めたとしか思えない、てらてらと光る短い筋。思わず上を見上げる。ぽとりと落ちてきたのか。それとも私...

耳に残るのは

コーヒー豆を焼き終えて、朝はランタナを切り詰めていた。シチヘンゲとも呼ばれる、カラフルでころころとした可愛らしい花にたいする愛は、他人の花壇がなせる技。私の家にあっては、どこまでも陣地を広げる厄介者。半端な切り戻しでは、...

季節を逃している

夜なんてものが、果たして本当にあるのだろうか。第十一飛行隊が青空になにごとかを、煙に巻こうとして、私のズボンのほとんどは、右膝に穴を穿たれている。これは偶然、しかも接線の存在しない偶然。空を海と見立てて泳いでいる魚でもい...

わたしの知るトマト

瞼を閉じていようが、どうしたって入り込んでくる光、それを見ながら髪を洗う。 近所の子供たちと畑の草抜きをした。どういう流れだったろうか。気づいたら草を抜いていたのである。ニホンカナヘビと、ニホントカゲを探してるんです。「...

味噌汁から遠いところ

今年はもう何匹の、胡瓜にまとわりつくオレンジ色の虫を殺したろうか。去勢した家の猫を慕って、庭をかけめぐる鉢割れの白猫にかける言葉はない。『アメリカシロヒトリ』という、聞き慣れぬ名前の蛾がいるそうである。アメリカ・白・一人...

どうしても明日を待ち望む心

窓の外は雨、シャンプーの泡がぽつぽつとはじける音。眠気なんてただの言葉だ、体の疲れも、言葉に疲れさせられているだけだ!と息巻いて、昨日は前の日の朝から眠らずに過ごしていたけれど、夕方ごろ、シンクの中の洗い物の山にどうして...

夕焼け一つ楽しんではくれぬもの

トラクターに寝床を奪われたカヤネズミは走り去り、カラスはそれを嘴で迎え入れた。蜂が家の南側に巣をたくさん作る年は台風がたくさん来ると言われているらしい。去年は忘れもしない、週末ごとの台風と、極めつけにハギビスなんて破壊的...

行方がわからない

実家の農業を手伝って、トラクターをかける。かき回され、均された泥土に降り立つのは、まずムクドリである。それからカラス。トラクターの後ろをゆっくりとついてきて、可愛らしい。最後の最後に、ハトがやってくる。彼らが俗っぽさの象...