味噌汁から遠いところ

今年はもう何匹の、胡瓜にまとわりつくオレンジ色の虫を殺したろうか。
去勢した家の猫を慕って、庭をかけめぐる鉢割れの白猫にかける言葉はない。
『アメリカシロヒトリ』という、聞き慣れぬ名前の蛾がいるそうである。
アメリカ・白・一人(実際には灯取だそう)とバラバラに分解してみて、その三語の脈絡のなさに少し可笑しさを感じる。
私の愛してやまない、言葉の上での旅行である。
ビートニクの詩人の中に、単語を書いたカードを無作為に何枚か選ぶことで詩を作る、といった試みをした人がいたように記憶している。面白そうである。
例えば、ここに「味噌汁」という言葉がある。味噌汁自体はそこかしこにある。
味噌汁から、意味や音で遠い言葉を、間髪いれずにすぐ接続することで、読み手は坂道を、西日の沈んでゆく峠を、眼前に広がる海を越えていくような、そういう旅行、飛躍の感覚を得ることはできるはずだ。
味噌汁から遠いところは、どこだろうか。
カーブの角度が急であるほど、かかる遠心力は私を遠い所へと連れて行ってくれそうである。
今夜の課題としよう。