行方がわからない

実家の農業を手伝って、トラクターをかける。
かき回され、均された泥土に降り立つのは、まずムクドリである。
それからカラス。トラクターの後ろをゆっくりとついてきて、可愛らしい。
最後の最後に、ハトがやってくる。
彼らが俗っぽさの象徴としてしばしば取りざたされる事に、強く頷く。
トラクターの運転席から土を見下ろしている。動体視力が泥土の中に蠢く生き物を見出す。
ミミズの動きではない。拾い上げてじっと見つめる。
ナマズのような顔だが、魚に詳しい友人曰く、どうもドジョウのようである。
毎年土の中から顔を出す。そのたびに疑問に思う。
田んぼに水が入っている期間は決して長くない。一年の内、半年以上は干上がっている。
彼らはどこで生れ、どうやってこの泥濘にたどり着いたのか。

家の近くに、誰も手を加えないがために草が伸び放題で、もうすぐ遷移して林になろうとしている空き地があり、そこには大きな大きなヌートリアが住んでいる。
げっ歯目特有の先細っていて長い尻尾、歯を剥いた時に見えるオレンジ色が、非常に悪魔的で、人間が頭をひねらなくても、悪魔と地獄はそこかしこに点在している事実に気づく。
もとは戦時中の毛皮をこさえるためだったはずだ、遠く故郷を離されて…。
海を埋めた、防波堤の上にチョークで絵を書いて遊ぶ子供らの姿。
悲しみはどこからきてどこへ行ったのだろう。