シュレディンガーの彼

彼は足が遅かった。 しかし、彼には太くてしなやかな大腿直筋とハムストリングが備わり、強い踏み出しを得るための足の接地面の割合、スタートから風の中にある首を上に持ち上げ、上半身の抵抗を背中に預けるまでの理想的な時間、走り終...

接岸する

笑いが起きているように見える。私には聞こえてこないので、わからなかった。冷凍されたものをそのままフライヤーに放り込んで、過剰なまでに振られた胡椒と胡麻で汚された軟骨の唐揚げが目の前に置かれた。油を吸うためだけに漉かれ裁断...

ひどく不恰好だ

「変えなきゃいけんよね」 執拗なまでに波紋を広げた何かが、なんだったのか私は見ていない。音のした方に首を…いや、目を…もとい、目すら向けていなかったかもしれない。石だろう。入力された情報は何の情報の援軍もないうちから解決...

T.K.と刺繍の入ったハンカチ

彼は、71円だけ握りしめて入ったコンビニで、何を見たのだろうか ありとあらゆる、そうでないものの中から、手持ちで買えるものを探す様はまさに白のなかにカラスを探そうとする求道者。 しかし、ここには彼の得られる conven...

にらめっこ

長靴は片側三車線の、広いバイパスの上にあった 高速で蓋をされたバイパスの上、車線と車線の境目に寝かされて落ちていた(人間とは勝手で、こんなにも小さいくせに、頭の上にモノがあるだけでこんなにも息苦しい) その沈黙に目を向け...

stubble

男は生まれ、そして間違いなく死んだ。 彼は彼女のこれまでの半生とはまるで関わりがない(この一節は筆者の親切心の析出である)。 大きめのロッドで巻いたパーマのよく似合うそのウェイターは、左手で彼女の髪を弄びながらオーダーに...

続・死にたいことについて

私たちの成熟した社会における営みの殆どが、徹底的に間違っている…いや、生物として不自然である可能性から、私が目を逸らして生きている理由は、単純に面倒な事に首を突っ込みたくないから。死ぬのは猛烈にこわいくせに、死にたいから...

たぶん死にたいだけ

ビートルズの歌を下劣なものだと見做して顧みなかった人は、当時もいただろうし、ブルース・スプリングスティーンの歌詞はただのハートランドの…アメリカの一辺境の労働者について歌ったものでしかないと、断じた人も当時はいただろう。...

SF的頭の体操

水の星に住んでいるなあと、実感する時がある。 フロントガラスを雨が無遠慮に叩き、空には厚く灰色の雲がまだたんまりとあり、何本もの川にかかる橋を渡っている最中。 違う星のありかたを想像してみる。SFテイストな頭の体操。 重...

全てが時間芸術

お勝手から出入りして良いのは三河屋だけである。人の出入りは玄関からのみ許されている。 しかし人はあらゆる角度や導線から人を知る。同時代を生きた人にとって、ルソーは露出狂であり、名著を数多く残した偉人ではないかもしれない。...