長い防波堤を

産毛に水滴が引っ掛かったような、軽いわずらわしさを感じて腕をさする。明日はコーヒー ムテのドライブスルー。北名古屋市のヘアサロン、 tablier さんの軒先をお借りします。深煎りと中深煎り、二種類の豆とコーヒー、ドーナ...

恋し坪井

日がな一日ギターを弾いて過ごした。われながら暢気なものである。豊かな語彙を、無機的でもあり爽やかでもある歌声で歌い上げるスピッツが好きだったが、ある日歌詞をじっと見ていると、なんだこれは、全部恋人に捧げる話じゃないか!全...

私の作る店は

久しぶりの雨である。窓を開け放ってその足取りに耳を澄ます。水の音は心地いい。作業の手が止まった瞬間に耳にする、洗濯機のドラムが回る音はやすらぎである。雨は永らく嫌いだった。お気に入りの長靴を手に、今は大分、好きになってき...

この色でいいのかい

猫が三日ぶりに見つかった。車に轢かれたわけでも、首輪が外れてしまったところで運悪く保健所に通報されて、連れていかれてしまったわけでもなく、安堵する。学生時代からのお付き合いが続いて、父と母は結婚した。レコード屋で、財布と...

回廊

日本語で文章を書くと、どう頑張っても皇居に行きつく、といったことを、誰だろう、村上龍だっただろうか、対談集で述べていて、とにかく私は驚いた。なにをとんでもないことを言っているのだろうか。理解を示さずに断じることもできたの...

彼女なら窓の外眺めてる

息子が高熱を出した翌日、なぜか私が起き上がることができず、夕方まで臥せってしまった。ぐうたらしたかっただけだろうと、妻は言う。妻は夢の中に出てくる人物ではなく、私の現実に登場する人物であるから、ログアウトしている私を悪し...

薹が立つ体

「死ぬのはいつも他人ばかりなり」と墓銘碑に彫らせた、彼の真意はわからない。けれど私も多くの例にもれず、私の知り得る死んだ人たちは悉く他人である。そのうちの2,3人は実は私だった、ということは今のところ起こっていない。平気...

怖いんだろう

「ヴァニティにキスをしろ!話はそれからだ…」手斧を買った。スウェーデンかどこかの手斧で、薄いクリーム色の、メープルだろうか、ずっしりとした木の柄が少し曲がっているところが気に入った。脈絡のないオレンジ色の塗装も気に入って...

窓の開け閉めだけで

私は天邪鬼である。筋金入りである。 異様なファサードが目に飛び込んでくる。それまで眺めていた平凡な街並みから突然、音もなく現れる逃げ水のように私の視界に躍り出た特異点、『OPEN』の文字、あるいは、名前だけ書かれたぶっき...

畑に立って

息子は幼稚園へ、私は焼き終えたコーヒー豆を包み、畑に立つ。長く高く、屋根を追い抜いたナンテンを切り戻す。枝の上下、どちら側にあった芽も高く天をめざし、せっせと垂直に伸びていく。ナンテンはどのような樹形であれば、綺麗だろう...