どこまでも広がってゆく
子供を幼稚園のバス発着場まで送った帰り、驟雨の前に車から出る気が起きず、しばしぼーっとしていた。今、表に出れば、ズボンまでびしょぬれになったり、慌てて水たまりを踏み抜いて悲惨なことになるかもしれない。雨脚が弱まるまで待っ...
子供を幼稚園のバス発着場まで送った帰り、驟雨の前に車から出る気が起きず、しばしぼーっとしていた。今、表に出れば、ズボンまでびしょぬれになったり、慌てて水たまりを踏み抜いて悲惨なことになるかもしれない。雨脚が弱まるまで待っ...
Daniel Johnston を聴いている。狂ったようにだ。ずっと一人の女性について歌っていると聞いて、驚いた。じゃあお前は、彼がなにについて歌っていると思っていたんだ?と尋ねられても、困る。歌う空洞、と思っていたのだ...
「マシュマロがちょうどすっぽりはまるくらいの額縁をください」 目が慣れてきて、あたりはゴカイにまみれた岩場であることに思い至る。最近よくセバドーを聴いている。昔バンドをやっていたころは、ジャグやカントリー、ジャズのサウン...
たえず蠢く雲を眺めて、自分には関係のない遠くの出来事に思い煩っているうちに初めて、私の中に力への意志がむくむくと湧き出てくるのを感じる。手際が悪いことを責めるわけにはいかない、ため息としつけのなっていない微笑みで乗り切っ...
「このあいだの話は、たった今から忘れてくれていい」 腰に由来する背中の痛みが朝の枕元にいつもある。体の事を考えるのはいつも面白く、新鮮な驚きや喜びを感じる。静かにバランスする姿勢をさがしてもぞもぞしたり、筋肉に気づかれな...
子供と公園に行く。走り回る子供を追いかけたり、木の実を拾ったり、手ごろな大きさの桜の梢を持ち歩いたり、私は彼の後を追ってハンカチで額の汗をぬぐう。思えば彼とこうして二人で何処かへ行くこと自体が、最近は久しぶりである。徳島...
なにごとかの怒りの、轍のようなものを残して躯体はどこかかなたへ消え失せてしまっているため、私はなんの話をしているのだろう、よくわからなくなってくる時がある。日本語のやめどき?あんまりうまく話ができたためしは、とても少ない...
ジャズと呼ばれる音楽が好きである。謙遜でなく、全く詳しくはないけれど。「ジャズのインプロヴィゼーションは(やたら長ったらしい即興の事と思っている)メロディの剽窃の連続だ」といったことを誰かが言っていて、なるほどそうかと思...
ずっと空にあった大きな大きな雨雲は、結局一粒の雨ももたらさなかった。私も草木も雨を渇望しているような気がする。愛知県は昔、夕立なんかなかったのに、この8月はなんどか、慈雨に預かれた日があった。クマゼミと共に北上する何事か...
「あのう、すいません。こちらはA4出口で間違いないですか?リンゴだけを食べて暮らしていたいのですが…。」男の額には焼け焦げたスパム、それでこんなに夜が長い。お互いにかかわることのなかった、鳥と豚の脂をひとつ鉄鍋で焼き付け...