歯噛みする
トラックに立った瞬間、考え得るすべてのゴールが拒絶したくなるほどに恐ろしいものである場合、ランナーはどういった選択肢を取るのだろうか。パジャマ姿でカレーを拵える父の姿。もうすぐ新車を買うそうで、それまでは生きていたいとい...
トラックに立った瞬間、考え得るすべてのゴールが拒絶したくなるほどに恐ろしいものである場合、ランナーはどういった選択肢を取るのだろうか。パジャマ姿でカレーを拵える父の姿。もうすぐ新車を買うそうで、それまでは生きていたいとい...
無理やり引き抜かれて赤く爛れていく手のひらのように君の影に沿って現れたみごとなまでの空洞防波堤の上で誰も啄もうとしなかった魚がゆっくり腐ってくそれ以下のできごとだ、君は俺がトマトにしてきたことに近い残酷だ 鷺が何も持たず...
『Factotum』を書いた小説家のチャールズ・ブコウスキーは、晩年まで郵便配達員に従事していたそうである。なぜかビートニクと一緒くたに紹介されるが、彼の作品は遥かに平和的で素朴、浅黒い肌をした祖父の優しくひび割れた分厚...
匂いを私は熊本で教わった。大げさでなく。人の家に上がるとき、マンションの廊下によどんで何十年もそこに留まっているような独特の匂いや、冷蔵庫のコンプレッサーが吐き出す黴臭さを嗅ぐと、祖母の家を思いだし、とても懐かしい気持ち...
哀しみや、やりきれなさはブルーズが発祥して以来の音楽の友だ、多分。歌を歌う人は、身に起った哀しみ、やりきれなさが、少しだけ通り過ぎた時に歌を拵える。哀しみの渦中にある人は、メロディを連ねることができない。今まさに、哀しん...
力とは何だろうか。寺院に関する書籍を紐解くと、たいてい一つや二つほど血なまぐさい話が出てくる。僧兵なる武装集団が絶大な勢力を誇っていた頃のエピソードなんか、ヤクザの跡目争いに見まごうばかりである。当時の寺を知るものが、今...
私の旋毛から糸が真上に伸びていたとして、それはどこにつながっているのだろうか。人間の目に映る景色のもつ色は、物質自体が色と呼ばれるものを持っているわけではなく、可視光線を受けて特定の色を反射しているだけだといった話を、昔...
バンドという単位の不自由さに思いを馳せる。 もっと上手にギターを弾ける人間は、彼のほかに5000人はいたかもしれない。本当は一緒に手伝ってほしい人がいるけれど、彼は仕事が忙しくて、無下に断られてしまった。次の楽曲ではドラ...
素人の浅知恵は往々にして駆逐される。できあがった風景を目の前にして、私は私の願いを初めて自覚する。 畑の話である。かなりぐちゃぐちゃだ。畝をたてず、さらには土に撥水する物質を敷くことに違和感を覚えて、マルチを敷くのをやめ...
PAシステム、つまり一つ所にあつまった多くの人々に対して、同じ音質の音を届ける仕組みを作り上げたのは、戦前のドイツ・ナチ党であったとはよく聞く話である。かつての演説会場であった劇場では観客が収まりきらず、野外に集まった一...