雲に行きたい

医術を志したのは、この世界から病に苦しむ人を根絶したくて、医者がいらなくなる世界を目指していたからではないの?
子供みたいなこと、と言われるかもしれないけれど、どこが子供なんだ、突っぱねてやる。
時折人の前に人が大きな障壁としてたちはだかる。私を愛せ、なんてのたまいながら突っ立っている。
私は足早に脇を通り過ぎるしかできない。唾を吐きかけなかったこと、感謝してくれよ。
私は君の髪を指がすっと梳いていくのが好きだ、同じくらい迷いなく眠る愚かな君が好きだ、滑稽なまでに肩を落とし涙を流す君が好きだ。
私は動物になりたい、ゴールもスタートも同じ場所であることはこの茶番じみた競技にぴったりのルールだろう。
私は汗に湿ったTシャツと素肌の隙間をなぜていく風の涼しさだけで他には何もいらない、自由なんてその隙間にしかない。
私はこの暗い密室で、布団に肩までおおわれてじっと空模様を眺める。今日は雨が降るらしい、吹雪の静止画みたいな雲。
あそこがとてつもなく寒い場所であること、忘れてしまえるなよ