閉所恐怖
「死後、さばきにあうんだってさ」宇宙に行けない渋谷は自らをそれに変容させたがっているみたいだ。生きた報いが欲しそうだ、それはセミがセミからずるりと脱出するときに現れる白くて細い管だ。私は延々と上下動を繰り返すエレベータの...
「死後、さばきにあうんだってさ」宇宙に行けない渋谷は自らをそれに変容させたがっているみたいだ。生きた報いが欲しそうだ、それはセミがセミからずるりと脱出するときに現れる白くて細い管だ。私は延々と上下動を繰り返すエレベータの...
猫は跛ひき、跛ひいたままどこかへ行ってしまった。あれじゃ遠くへは行けまい、だけど探しても見つからない。風もないのに騒がしいのは丸ノ内線の通奏低音、傍らの私めは、ぼんやりと欠伸をひとつ、ふたつ…。三つ目をタッパーに持たせて...
私は足元から拾い上げる、その顔は時に微笑んでいるようで、哀しんでもいたかもしれない。十年経ち、二十年が経過して、私は旅行を続ける。拾い上げた物事を、どこでそうしたか思いだす滑稽な旅である。ひねっもーすと歌い始める、突然面...
どうして私の身体ぜんたいはジタバタするのだろう。ギターを一弦だけ、選んで音を鳴らす。心はすぐ、次の関係を求める。指を振り下ろして和音を出せ、さもなくば旋律を起こせと吠える。なだめすかして、再び弦を震わせる。今度は革張りの...
「ものすごく高尚な手段をさ」水際を遠くまで細かく跳ねる石、橋脚を目指していた。「足りない頭の人でも、考えなくても選ぶことができるのがいけなかったんだね」私はうなづいて、車輪に絡めとられて失った親指の妄想をする。じゃあどこ...
イカサマ師になろうと思い立ち、ギターを手に持ったようにあなたにも迷わずネクタイの柄を選べる日は来る。その駒は最初からそこにあったのか、気づかれることのなかった空白のどちらかであって、こんにち、ビルが建ち尽くし土に蓋をしつ...
ラッセ・ハルストレム監督の映画を観る。4本目、タイトルは『ギルバート・グレイプ』。心を確かに支えていなければ、登場人物たちの会話する様、逆手で手にしたスプーンの中、牛乳に浮かぶブヨブヨのオートミールなんかが、私が普段の暮...
「もうひとり、ムーアって苗字の人がいたよな…有名な人でさ、誰だっけ」夕立は明け、彼女は去った私は後を追いかける、足を前に出すたび、その場で転んでまいど天を仰ぐ一向に近づいてこない背中、鷺がカアとか言う 夢を終わらせるため...
どうにかして笑いをおびき寄せる卑屈さもまた、薬莢を残して彼方まで飛びうるのだ私は地べたのつちくれを舐めるふりをして為政者に唾をひっかける技法を学ぶ子供らはあっちへお行き。そして瞬きを禁じます鳥の首を落とすより早く簡単に、...
脆弱さはひとつの大いなる凶器だった。明日、味噌汁に押し流されて喉を伝う神経毒が粉塵爆発の悲惨なニュースにもみ消されて私と、私以外の少なからぬ人々がモニターの向こう歯噛みしてセラミックをたわませるあの…ぼんやりと立ち話がこ...