中々外に出られない

初めて自分の歌を作ったのは、10歳の冬、プールからの帰り道だった。歌というより、ほぼワンフレーズだけだが。 日はすっかり落ちて、けれど家から自転車ですぐのプール教室だったから、迎えはなく一人で帰る道の途中、その年初めての...

彼らもまた死刑囚

幾度となく記してきたが、私は死ぬのが怖い。うーんと怖い。一人でいると、いつも死のことが頭をよぎり、息が上がり、心臓は早鐘を打ち、私はそれが治るまではずっと、不調をきたした動物園のネコ科動物のようにウロウロと歩き回ることに...

私は人間のようです

「なぜ、私たちは哲学的ゾンビではないと言えるのか?」という問いがある。むしろ言いたいのだが…私は哲学的ゾンビだ。あんたはどうだ? ジャズにはリックと呼ばれる技術がある。短いフレーズの定型を表し、プレイヤーはこれらを適宜組...

だんだんわかってくる

渋滞が嫌いである。 逆に、渋滞が好きだなんて人がいるならお目にかかりたいものだ。知り合いにそんな人がいたら、私の前に連れてくるがいい。そしてこう言うのだ。「こんにちは。丹下さん、こちらが前お話しした、渋滞が大好きなハミル...

ラストオーダーは

パソコンと向き合う仕事を抱えて、ファミレスに来た。私はある程度は愚かな男で、出先でやりかけた仕事はそのまま出先で片付けろ、というビジネス書の言葉を頭から信じ込んで動いて見る程度には愚かで、それを愚直と言い換える狡賢さもし...

タオルを煮沸する

妻と子が、妻の実家に帰省しているあいだ、私はタオルを煮沸する。 そもそもなぜ煮沸をするのか。理由はある。実務的な理由も多々ある。だが説明は省く。 すると、誰もいないキッチンのコンロの上で、グツグツと煮えていく私のタオルに...

落ち着かない

どうして私は水平線の彼方に去りゆく汽船の一隻すら、それを最後まで見届けられないのか? 世界は5分前に作られた、あるいは、世界が5分前に作られたわけではないことの証明をしてみせよ、といった話を読んだ覚えがある。 小さい頃は...

関心して話を終える

言うまでもなく怒りや劣等感、孤独をくべて、炎を燃やして生きてきた。繊細とか嘘がつけないとか、そういった手垢のつきまくった言葉で形容して溜飲を下げるつもりはさらさら無く、出来の悪い歪な神経のバリに、あらゆることがいちいち引...

それは余計なものだよ。

昼下がり、仕事から戻った私に妻がそわそわとしながら言う。小山田氏のニュースが今日やっと、彼女の耳に届いたらしい。 元オリ少女である妻は、彼女らの多数の例に漏れず、青春時代を渋谷系に捧げた。一言一言、組み立てた言葉を思い出...

夢日記

夢日記を書くと危ないらしい。どこの誰かが過去にのたまった言葉のうろ覚えの記憶に苛まれたり、行動を阻まれたりする、不便な生である。 昨日は勤務先の(私はコーヒー焙煎の傍ら、運送業にも従事している。まだコーヒー一本では食って...