足りないこと

現実を描くのは難しい。ボサッと突っ立っている時に、目の前にある植え込みの柘植の葉っぱがどのような規則に依った生え方をしており、その規則がどの枝で破られて、太陽光線をどこが浴びてどこが翳っているのか、どこまでが古い枝で、ど...

産湯

忘れものみたいな太々しさで嵐がやってくる中で、私は弁当の中身を覗かれ続けた。 それがどうにも我慢ならず、私は亜麻と葡萄酒をことさら憎み、友人の父らの無遠慮な流し目をすべて引っこ抜いた。 あいつら(小休止)電子レンジにあて...

決める

「狂気の桜」で須藤元気がベッドの上、腰から下が動かなくなっているのはサラリーマンのメタファーだなーと思っている。という話を誰彼構わず事あるごとに言って回っている気がする。そんなことない? 何を暗喩しているか。それは、言責...

話し声を聞きながら眠る

今日は一日ソワソワするような風に当てられ、涼しく過ごせ、しかし日中の勤めを終えて家に帰ってから、台風の去来を告げる風に日中と同じように当たっていると、私の心の中に私一人を除いて誰もいないことに思い至り、これはなんとも、如...

走りたい

母は高校時代、剣道部のマネージャーだった。 初めて有段者となった時私は、段はいくつまであるのか、最高位の八段は、数えるほどの人しか有していないことなどを聞いた。 「八段持ってる人が少ないなら、八段の審査は誰がするん?」と...

中々外に出られない

初めて自分の歌を作ったのは、10歳の冬、プールからの帰り道だった。歌というより、ほぼワンフレーズだけだが。 日はすっかり落ちて、けれど家から自転車ですぐのプール教室だったから、迎えはなく一人で帰る道の途中、その年初めての...

彼らもまた死刑囚

幾度となく記してきたが、私は死ぬのが怖い。うーんと怖い。一人でいると、いつも死のことが頭をよぎり、息が上がり、心臓は早鐘を打ち、私はそれが治るまではずっと、不調をきたした動物園のネコ科動物のようにウロウロと歩き回ることに...

私は人間のようです

「なぜ、私たちは哲学的ゾンビではないと言えるのか?」という問いがある。むしろ言いたいのだが…私は哲学的ゾンビだ。あんたはどうだ? ジャズにはリックと呼ばれる技術がある。短いフレーズの定型を表し、プレイヤーはこれらを適宜組...