わたしを描いて

男の身体はとかく惨めだ。だってそうじゃないか? 頼まれてもいないのにせっせと朽ちてゆく。神はこの問題にダンマリを決め込んだままだ。それで、私たちは筆とインクを与えられた。 この世に生み落とされたありとあらゆる書物や絵画、...

ごきげんはいかが

catacombe(地下墓所、死者を葬るために使われた洞穴) 大学では軽音サークルに所属していた。碌に就職もせずギターばかり弾いており、その圧倒的な腕前(と数多の奇行)で恐れられていた先輩は、「1番のエフェクターは指だ」...

水流間

その時、大雨を連れた風の斥候みたいなもんに彼女のベージュのロングスカートはそそのかされ…ツイルの張りのある生地で、そんな色の服を着ているイメージが無かったものだから彼はよく覚えている…それが風に大きく膨らんで、煙草を持っ...

関係のない二人

車を根絶やしにできるか?今日はポリバケツの中で目覚めた。少女はうつむいたまま答えない。秘め事を蓄えた瑪瑙。かわりにカマキリのつがいのブローチを差し出した…どうしてそれがつがいだとわかるの?そりゃあ、だって…なにかを二つ世...

戦場に行かなくても

人は海の向こうから故郷にないものを連れ帰ってくる。よくある。今では日本中に生え、所によっては御神木のような待遇にあったりするけれども、楠だって海の外からやってきた、らしい。ロックとかジャズとか、疫病、新しい宗教、海や山を...

邪宗門とその町

すこし昔の話。ジブリの中では『耳をすませば』が好きだった。Olivia Newton-John の名カバーをバックに、冒頭、多摩川を渡る京王線が分倍河原駅に滑り込んでいくシーンが特に好きで、当時清須の町から出たことのなか...

私を引き連れていくもの

日に日に春めいていく。 季節から遠ざけられることを労働と呼ぶのであれば、私はできうるかぎり働きたくない。私の欲する成分は空調のダクトの中にはないのかもしれない、欠伸が止まらなく、嵌め殺しの窓を恨めしく見やる。 息子はレゴ...

on your right side will open

なにひとつの反動を求めないで、ぴょんぴょんと飛び跳ねたり路地の真ん中で立ち止まってみたいものである。押さえつけられて固く収縮する僧帽筋の歌、頭蓋骨を足元高く保つ骨のゆらぎを想像しない、アメーバかゲル、はたまた一条の煙、そ...

灯りを消したがる人

「あなたって」 「糸ようじしてる時に一番誠実な顔をするのよね」 私の背中越しに鏡を覗き込んで、女が嗤う。なにやら事情通な話しぶりだが、あいにく誰だったか思い出せない 「お姉…おねえちゃん?」口には出せなかった。糸ようじし...