水流間

その時、大雨を連れた風の斥候みたいなもんに彼女のベージュのロングスカートはそそのかされ…ツイルの張りのある生地で、そんな色の服を着ているイメージが無かったものだから彼はよく覚えている…それが風に大きく膨らんで、煙草を持っていない方の手で膝のあたりを押さえて彼女はやり過ごした。

彼の耳にはごめんなさいと聞こえたような気がして、他のあらゆる言葉も全て間違っていて、間違い方が一番軽微なものを選んだのかもしれないし、そもそも何も言っていないかもしれない。

ほんのひとときの風すら気軽に茶化し合う事ができなくなって彼は、全てを忘れて彼女の他所行きの面だけを眺めていたかった。