回廊
日本語で文章を書くと、どう頑張っても皇居に行きつく、といったことを、誰だろう、村上龍だっただろうか、対談集で述べていて、とにかく私は驚いた。なにをとんでもないことを言っているのだろうか。理解を示さずに断じることもできたの...
日本語で文章を書くと、どう頑張っても皇居に行きつく、といったことを、誰だろう、村上龍だっただろうか、対談集で述べていて、とにかく私は驚いた。なにをとんでもないことを言っているのだろうか。理解を示さずに断じることもできたの...
息子が高熱を出した翌日、なぜか私が起き上がることができず、夕方まで臥せってしまった。ぐうたらしたかっただけだろうと、妻は言う。妻は夢の中に出てくる人物ではなく、私の現実に登場する人物であるから、ログアウトしている私を悪し...
「死ぬのはいつも他人ばかりなり」と墓銘碑に彫らせた、彼の真意はわからない。けれど私も多くの例にもれず、私の知り得る死んだ人たちは悉く他人である。そのうちの2,3人は実は私だった、ということは今のところ起こっていない。平気...
「ヴァニティにキスをしろ!話はそれからだ…」手斧を買った。スウェーデンかどこかの手斧で、薄いクリーム色の、メープルだろうか、ずっしりとした木の柄が少し曲がっているところが気に入った。脈絡のないオレンジ色の塗装も気に入って...
私は天邪鬼である。筋金入りである。 異様なファサードが目に飛び込んでくる。それまで眺めていた平凡な街並みから突然、音もなく現れる逃げ水のように私の視界に躍り出た特異点、『OPEN』の文字、あるいは、名前だけ書かれたぶっき...
息子は幼稚園へ、私は焼き終えたコーヒー豆を包み、畑に立つ。長く高く、屋根を追い抜いたナンテンを切り戻す。枝の上下、どちら側にあった芽も高く天をめざし、せっせと垂直に伸びていく。ナンテンはどのような樹形であれば、綺麗だろう...
なくした海に来て、欠伸が喉を落ちていく音。冬に徳島に行けそうである。嬉しい。海の近くの町に住んだのは、徳島が初めてだった。 1,2分ほど歩けば汽水エイが泳いでいて、自転車で少し行けば、靄の向こうに和歌山を臨む紀伊水道の、...
ざわめきが遠ざかり、どれだけ耳を澄ませても骨の軋みしか拾えない。Sondre Lerche を聴きながらキーボードをたたいている。ノルウェーで彼が、どのような待遇にあるのかは全く知らない。顔が良いから、出たての頃は、アイ...