この色でいいのかい
猫が三日ぶりに見つかった。車に轢かれたわけでも、首輪が外れてしまったところで運悪く保健所に通報されて、連れていかれてしまったわけでもなく、安堵する。学生時代からのお付き合いが続いて、父と母は結婚した。レコード屋で、財布と...
猫が三日ぶりに見つかった。車に轢かれたわけでも、首輪が外れてしまったところで運悪く保健所に通報されて、連れていかれてしまったわけでもなく、安堵する。学生時代からのお付き合いが続いて、父と母は結婚した。レコード屋で、財布と...
日本語で文章を書くと、どう頑張っても皇居に行きつく、といったことを、誰だろう、村上龍だっただろうか、対談集で述べていて、とにかく私は驚いた。なにをとんでもないことを言っているのだろうか。理解を示さずに断じることもできたの...
息子が高熱を出した翌日、なぜか私が起き上がることができず、夕方まで臥せってしまった。ぐうたらしたかっただけだろうと、妻は言う。妻は夢の中に出てくる人物ではなく、私の現実に登場する人物であるから、ログアウトしている私を悪し...
「死ぬのはいつも他人ばかりなり」と墓銘碑に彫らせた、彼の真意はわからない。けれど私も多くの例にもれず、私の知り得る死んだ人たちは悉く他人である。そのうちの2,3人は実は私だった、ということは今のところ起こっていない。平気...
「ヴァニティにキスをしろ!話はそれからだ…」手斧を買った。スウェーデンかどこかの手斧で、薄いクリーム色の、メープルだろうか、ずっしりとした木の柄が少し曲がっているところが気に入った。脈絡のないオレンジ色の塗装も気に入って...
私は天邪鬼である。筋金入りである。 異様なファサードが目に飛び込んでくる。それまで眺めていた平凡な街並みから突然、音もなく現れる逃げ水のように私の視界に躍り出た特異点、『OPEN』の文字、あるいは、名前だけ書かれたぶっき...
息子は幼稚園へ、私は焼き終えたコーヒー豆を包み、畑に立つ。長く高く、屋根を追い抜いたナンテンを切り戻す。枝の上下、どちら側にあった芽も高く天をめざし、せっせと垂直に伸びていく。ナンテンはどのような樹形であれば、綺麗だろう...
なくした海に来て、欠伸が喉を落ちていく音。冬に徳島に行けそうである。嬉しい。海の近くの町に住んだのは、徳島が初めてだった。 1,2分ほど歩けば汽水エイが泳いでいて、自転車で少し行けば、靄の向こうに和歌山を臨む紀伊水道の、...
ざわめきが遠ざかり、どれだけ耳を澄ませても骨の軋みしか拾えない。Sondre Lerche を聴きながらキーボードをたたいている。ノルウェーで彼が、どのような待遇にあるのかは全く知らない。顔が良いから、出たての頃は、アイ...
ナメクジの這いまわった跡はいつもどこかで途切れている。彼らの動く速さを考えると、私がその存在に気付くほんの数秒前から蠕動を始めたとしか思えない、てらてらと光る短い筋。思わず上を見上げる。ぽとりと落ちてきたのか。それとも私...