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右耳が聞こえなくなって、そもそも外耳がごっそりと削ぎ落とされていることに気づく。傷跡はない。つるんとした肌がそこにある。懐かしい声でなにやらをささやく気配があり、反対側の耳と震える肌が言葉に置き換えようとするけれど、そこにはなにもない。どこかの風呂場だったようにも思うし、天井近くを横に伝うパイプ型のシャワーがあったから、学校のプールかなにかかもしれない。記憶のつぎはぎで拵えられた空間だ。俺と彼女の他に誰もいない、彼女は右耳の痕に息れを残していっただけで、形としては存在していなかったのかも知れない。

といった夢をみて、夕方俺は右足をごっそりと失っていることに気づく。バランスを崩し始めるのはその後だ。不思議だなあ、窓ガラスに頭をしこたまに打ちつけながら呑気なことを思う。