あんまり遠くに行きたくない
おしゃれをすることに興味が芽生え始めたのはいつ頃だったろうか。クローゼットを飾り立てるお気に入りの服たちに恍惚とするのは、ほんの少しの間だけだった。逆立ちしようがどれだけ勉強を頑張ろうが、足は二本から先増える兆しはなく、...
おしゃれをすることに興味が芽生え始めたのはいつ頃だったろうか。クローゼットを飾り立てるお気に入りの服たちに恍惚とするのは、ほんの少しの間だけだった。逆立ちしようがどれだけ勉強を頑張ろうが、足は二本から先増える兆しはなく、...
顔を洗うために髭を剃る。逆だろうか。 私は、冷たい水に顔をさらけ出すことを極端に嫌う。冷たい飲み物も好まなければ、火を通していない食事はできうる限り避けている。東洋医学的な見地に基づいて、体を冷やさないように気を付けてい...
ドライブスルーと称して、ヘアサロンの軒先でコーヒーを出している。いつまで続けられるのだろう。最悪のパターンは最大限の努力を払って未然に防ぐとしても、快く思わない誰かに石を投じられる日も、もしかしたら近いのかもしれない。そ...
トクサを買ってきた。西日が弱まりかけてきたころ、ベージュのハスラーの後部ドアからヌッと、長さ60cm前後のツクシのお化けのような緑色した棒の束を取り出して、私は私の庭に横たえる。今日は風が強い。トクサは昔から好きな植物の...
また音楽の話。歌の歌詞が好きである。やれサウンドがどうだ、あそこのヴィブラートがどうだ、ギターが変わってあのバンドは花開いたね、みたいなスポーティ(?)な話も、嫌いではないが、私にとってそれはかなり副次的なことである。私...
テーブルに牡丹の花を一輪、生けた。一輪だけ生ける、というのは私がひっそりと敬愛しているレストランの見様見真似である。たまたま花開いた時期が一緒であったために、狭いガラス花瓶の海へ流刑となった、お互い遠縁にも当たらないよそ...
また音楽の話。聴くものに困るときがある。手を動かしている時間を少しでも楽しいものにしたいという、ささやかな願いはあるが、頭の中にあるミュージシャン名鑑のページをめくる努力すら、億劫に思える時がそれにあたる。そんな時は考え...
『朝が来て 苛立と目が合った』salyuというミュージシャンが好きである。学生の頃、特に中高生の頃に聴いていた音楽というのは、その思い出を共有する友人たちごと、ひっそりとした雑木林を貫く遊歩道の柵を乗り越えて少し行ったあ...
ダイナマイトに代わるものは、なんなのだろう。ぎょっとする書き出し。でもなんのことはない、テレビの中の話である。私が小さい頃は、ドラマも映画も、大詰めになれば登場するのが、ダイナマイトだったように思う。トレンチコートの内側...
夕暮れのことを考える。とにかく寂しいものだった。電灯がいっせいにパッと、付くタイミングを目にしてしまったとき。無遠慮なヴォリュームで流れる『遠き山に日は落ちて』の放送が会話を断ち切ったとき。どこかの窓から漂ってきた、大根...