ホラーゲームが好きだったが、ゲーム機が高価になるにつれ、ゲーム自体も複雑な操作性を帯びていくため、ハイティーンのとある段階で友人のゲームを視聴するだけの人間に成り下がった。
SIRENというゲームは、ゾンビゲーム全盛期(多分)だった当時、日本を舞台にした独自の世界設定のゲームで、ここでは人々はゾンビではなく屍人(しびと)とよばれる生命体に変貌を遂げる。主人公として操作できるキャラクターは無数におり、オムニバスストーリーのようにそれぞれの主人公をめぐる短い話が、時系列バラバラに展開される。
ゲームの前半で操作していたキャラクターが、後編で蝿に似た屍人に変容して空を飛んでいるのを、プレイヤーたる私たちは驚きと悍ましさをないまぜにした感情で見つめるが、操作されているキャラクターじたいは宙を舞うかつての人間と面識がないため、特に何のドラマ的な展開が生まれない。プレイヤーを孤独の底の方に突き落とす仕掛けの多いゲームであった。
このゲームにはもうひとつ、従来のゾンビゲームとは一線を画す設定があった。
ゲームをプレイしていた友人が言っていた言葉をいま、十数年越しに思い返して記す。「この屍人って存在は、頭の中では今素晴らしい世界を生きていて、人間を襲う理由は、自分達の素晴らしい世界へと他の人々を案内してあげよう、としてるんだってさ」
十数年の経過を経て、この屍人になぞらえることのできる人々のなんと多く、そして私を含め、その屍人の例から漏れ出ることの、なんと難しいことか。