1/10

街灯の真下へ辿り着くごとに、私たちは顔を見合わせてお互いに笑いかける。

新月の夜に与えられる仕事は少ない。
木々をひとしきり物色したのちに飛び去る。
言葉巧みに彼女を誘い出したはいいが、ヘリポートにはシワだらけの背広を着た男が一人、立っているきりで、他には誰もいない。
肝心の車が思うように調達できず、傍らの猫がほんの少し、耳をいからせる。
金網の規格が想定と違い、男は焦った面持ちで時計を見やる。
子供の寝かしつけに刺激的な絵本を選ばないように釘を刺され、私は本棚から彼の心に何の心象も想起させないような…毒にも薬にもならぬ本を2冊、見繕ってベッドへと向かう。
目尻の下に小さな黒子があることを認め、スニーカーをねじ込んでよじ登るのに苦心した。
3269個めのゴルフボールを拾い上げて、誰に聞かせるわけでもなく「まだ早かろう」という言葉が口をついて出る。
メジロが庭を訪れて、男は彼一人だけが「魚籠」と呼ぶカゴの中にそれを投げ入れる。
コインランドリーに置いてある去年の週刊誌の表紙には、そこに躍るあらゆる文面のゴシップから人びとの目を醒まさせるかのように無感動な筆致で『竹本』とあり、この前メールで話していたのはこの黒子のことか、などとぼんやりと考える。
柵を越えた頃には駅が出来、その時初めて私はこのコインランドリーの名前を知ることになった。
目抜き通りには瀟洒な劇場が間口を広げて人々を迎え入れている。

街灯の真下へ辿り着くごとに、私たちは顔を見合わせてお互いに笑いかける。