変な人が出た

「はい、…ええ、…前もお伝えしたと思うんですけど、その宅はうちの北側の、苗字は同じですけど違う宅ですので…右手に街灯が見えますか?そのT字の交差点を左に曲がっていただいて…ええ、曲がったら突き当たりまで行ってください」

「そうしたら、突き当たりを左に行きます。少しいくと、右側のベンチに人が横たわっていると思うんですが…ええ、…そうですそうですそれが私です。おい、聞こえてるか?」

「で、そのまま私を右手に見ながら、生垣に沿ってまっすぐいくと、左手に車一台通れるかわからない…くらいの、細い道があると思うんです、右に高い塀のあるお宅との間です。…そうですそうです、長谷川さん。表札ありますよね。赤茶色のシーサーの置物があって…それが私です。聞こえてんだろ?」

「その長谷川さんを右手に見ながら、生垣沿いに進んで左にまがると、ちょっと行ったところにハザードを焚いたまま路肩に止めてある2tトラックがあると思うんです。それに乗り込んで、長楽通りまで出てもらうと、中央分離帯があるせいで左折しかできません。でもどうか、残念に思わないでください。左折して少し進めば、Uターンできるように分離帯がそこで途切れているのです。でも右折って、そんなにしたいですか?胸に手を当てて考えてみてください、身に覚えのない瘡蓋を見つけたからといって、それをわざわざ剥がして肌の下の肉を空気にあてる必要がありますか?私はどこまでもあなたに付き纏い、あなたの傷をなかったことにしますそして、あなたに『健常』の烙印を押しつけるのですいつ何時でも、いかなる出来事が訪れても」