ダニオロの父の首は、朽ちかけて今はもう取り壊すばかりになった公団のB棟、その屋上、干上がった給水塔の中で見つかった。
三日三晩、逃走劇の後、自警団の連中はひょっとすると、誰もホシの顔を知らないという事に思い至り、歩みを止めてかくれんぼをはじめた矢先の発見だった。
ダルトーンのチェック柄した布のあてられた手押し車に腰かけている老婆は砂埃に煤けて、どこからが座面で、どこからが彼女の衣服だか、区別がつかない。しかし彼女は賢かった。自分は探しものをしても何一つ見つけられっこない人間であると、自らを評していたのだから。
「いい加減車の運転くらい覚えたらどうだい」ダニオロが極端に嫌っていた母は、口癖のように息を吐いて、そして吸った。盗んだ牛の血で手を洗い、河原に住む連中とは金輪際付き合うのをやめた。小指の爪の先に、かすかな蟻走感を感じて服の布地に擦り付けた。何か良くないことが起きる。母は赤黒い前掛けで包丁の脂を拭う。
結局その男はダニオロの父だと見なされ、牛の第三胃袋ほどの大きさの肉塊は母子の元へ運びこまれた。
死体の顔立ちに家族の面影を探すことは非常に難しく…母は人違いではないかと、熱心にその首を見つめていたが、彼女は夫に対しての、違えるほどの記憶をそもそも持ち合わせていなかった。