遠い

ケストナーの稼業は辞書の編纂、それも引用回数の少ない語句の削除を担っていた。

少しの創造的な野心も持たずに未来をmanipulateできる愉楽に首まで浸かり打ち震える彼は、一生を、この仕事に費やしていきたいと、念じたろうか、その後モニターに向かい通しで丸まった背中を逆に反らせて大きな欠伸をし、舌を噛み切った。

その夜、彼の妻は鯨幕で鼻をかみ、やっぱりガイジンはだめねえ、口を滑らせる親戚の声が、イヤホンの隙間から漏れ聞こえてくる。

右手であたりを弄ってみても、あるのは自分の体、喪服、ストッキング、心臓の鼓動があるばかりで、彼女は自分一人だけがここで生きていることを悟る。