知らない場所はない

インターホンが鳴って、俺は列をなした運び屋を順番に部屋へ招き入れる。

彼らの手にしたものはてんでバラバラ。

顔を紅潮させて巨大な段ボールを抱えているものもいれば、何事かが書かれた四つ折りのペーパーナフキン1枚、ひらひらさせて突っ立ってる男もいた。

俺は梱包を次々に開ける。

マスターグレードのガンダム試作2号機(ボロボロになったやつ)、マクレガーの茶色いダウンジャケット、16面体のサイコロ、足の裏を汚した細かな砂、不知火と書かれた3尺7寸の竹刀、クロムハーツの指輪(サイズ違いで二つ)、腐ってボンドのような匂いのするブルーベリーのジャム、川沿いのソメイヨシノ、青いポロシャツ、ピザ、自転車のフェンダーに挟まって息絶えていたスズメバチ、ネムの花、店の鍵、下宿の鍵、学生証、土間に並んでいた水タバコ、坂の上にある教会、『妄想代理人』のDVD、傘のついた手押し車、1日1600円のレンタサイクル、三日月型に穴の開けられた石灯籠、お遍路のマネキン、アルミテープ…

人間の空間認識についての定説が覆された日から、個々人の記憶と場所にまつわるあらゆる品がトレースされ、もとの所有者の家へと届けられてゆく。

俺の家のチャイムは鳴り止まない。梱包を開けるたび、記憶と場所が失われ続ける。

人々の記憶からこぼれ落ちて、全くの空白地帯となったその場所に、為政者は大きな原っぱを作り、そこで昼寝をするそうである。