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「死ね愛の言葉」という一節から始まる、一見殺伐としているが淡々とした詩をどこかで見かけて、それがどこで見たものだったのか思い出せない。そのうちまた出会う。

父は病院の休憩室で私と兄に、「止まない雨はない」といった言葉をかけた。それは私たち兄弟に対する励ましの言葉のようでもあり、根治するかわからぬ自らの病に対する不安を吹き飛ばすために言い聞かせた言葉のようでもあり、その他あらゆる可能性、そのどれでもかまわない。あんなに本を読んでいたのに、そんなに手垢まみれの表現が口をついて出るものなのか。
私は家に帰ってこいつの蔵書をすべて燃やしてやろうと思ったのだった。

「終わった後にタバコ吸わないで」昔、女の子にそんなことを言われた覚えがある。うおお、ハイティーンのころ、雑誌で読んだことある、なんか嫌がられるって書いてあった、理由は覚えてないな…ほんとにそう思う人いるんだ、へええ、この人が。
カーネル・サンダースの生前の映像を初めて見たときのような…わかりづらいな、図鑑でしか見たことない生き物を実際に目の当たりにした時のような知的興奮が私を訪れ、すぐに去っていった。私は彼女の顔を覗き込んだか、覗き込まなかったかした。雑誌やテレビ、カーテンの内側で交わされる会話、教室中に響き渡るひそひそ話たちが棟上げした、それは彼女ではなく、彼女の人生の総和という建造物…それが彼女の体を借りて語りかけているような印象を覚え、私はタバコをもみ消したが、一緒に他のものがシンクの水と一緒に下水へと吸い込まれていった。

誰よりも長く起きている人、あなた、どこで何をしている?
あなたを追いかけて、永遠に西へ西へと車を走らせていれば、頼みもしないのに肌を刺してくる、ぶしつけな太陽から逃れて夜の中を遠泳できるのだろうか。地点Aにおいて日の出を確認できたタイミングで、まだ夜明けが訪れていない場所の中で最も地点Aに近い場所を地点Bとすると、AとBはどれくらい離れているんだろう。朝の再訪を拒んで移動し続ける高速の列車。そんなものの存在について思いを馳せてしまうのは、いまが単純に夜だからであり、朝の自分に考え事をする時間を与えてみなさい。そんなこと微塵にも思わないから。

ひとつだけいいことを思いついた。私とあなたが生きているこの世界は、全人類がいまだ体感したことのない最先端のもので、あなたに訪れる悩みは、全人類がいまだ解決に至ったことのない、最高難易度の複雑さを帯びた最新のものである。一生かけて取り組むおもしろみがある。
社会通念が再生産した「過去の誰かの人生」を生きなおしているわけでは決してない。
なるべく、言葉を尽くして、つっかえたり言い直したりしながら、あなたの話を聞かせてほしい。

あなたの人生は、蔵書を燃やされたり、軽んじられたりする程度のものではないと、一緒に証明したいのだ。