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「僕こんなに楽しい日、初めてですよ。職場じゃ彼女たちの曲なんか聴いたことない人しかいないですもん」

まあまあ私は絶望する。雲の上の存在、どメジャーな存在であった彼女たちの音楽ですら、誰かの孤独を癒し、しかしその孤独を、解消することなく深めていたのか、などと思う。

「アセスルファムカリウムってさ、それ自体は甘くないけど、人間の脳みそに直接『甘い』って信号を伝えるんだって」したり顔で友人は言い、俺は慄く。何年かしてふと考えてみる。スクロース…我々が日頃口にする砂糖の主成分…も、語り口が違うだけで、アセスルファムカリウム同様、甘味の電気信号を脳みそに送りつけているだけではないのか?

孤独を癒してくれる存在がある。それは人によっては音楽かもしれないし詩かもしれない、深夜のラジオかもしれない、youtuberの配信かもしれない。

もう少し言葉を続けよう。孤独を癒してくれる存在があり、同時にそれらは、あなたの孤独を深める存在であるかもしれない。

「きのう、幽霊を見たんだ。ほんとだよ」あなたはなんども、心なくも自然な嘲笑に傷つけられ、いつしか誰に対しても固く口を閉ざし、諦めたような鈍い微笑みを返す石になった。

石にしたのはそれら幽霊で、用法を間違えたのはあなた。酸素ボンベは海面を目指す救命胴衣ではない。引き続き、光射さぬ孤独の海中を漂い続けるためのものだ。

孤独を癒し、そして孤独を深めることなく解消させる存在、を目指す責任が、私にもあなたにもある。