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ずっと深爪。ずっとです。ずっと深爪でした。なんでこんな硬い物質が指にあるのか分かんなかったし、黒板を引っ掻く音は大嫌いでなるべく耳にしたくなかったしで、ロゼット状になって越冬するタンポポぐらい深爪してたんです。ずっと。

でもなんかそれもみっともないなあと思うようになってきたんです、最近。楽器弾く人の指って長くて爪もきれいだったりするんです。憧れちゃって。

で、爪について改めて調べてみたら、「指の骨は指の先端までは届いておらず、指先を支えるためには爪で補う必要がある。したがって、爪は指先の皮膚が隠れるまで伸ばすのが理想」とありまして、なるほどそうかと実践してるわけです。ここ数週間。

結論からいえば、不便で不愉快なんですが、運命が変わりつつあります。なにいってんだ。スピッツか。お前は。バスの揺れ方でなんか気づいたんか。

どういうことかって、爪が伸びてる状態で、横着してモノに触ると爪が割れたり欠けたりするため、モノを見つめるようになったんです。今日ね、出店でよく使うクーラーボックスで、開け閉めの際に何度も爪が引っかかって、すごく不快な思いをして…その時初めて、クーラーボックスの蓋の側面のある箇所に、爪というか指を引っかける空洞が空いていることを知ったんです。

この話、人によっては噴飯物のくだらない内容なんですけど、本当の本当に、深爪してた頃は、開けばなんでも同じとばかりに、メーカーの想定していない場所に指を突っ込んで開けてたんです。身体が傷つく不快感を恐れたことで初めてわたしは、モノを見つめることができるようになってくるかもしれない。コーヒーカップの取っ手の存在を全く無視して、湯呑みのように3本の指で支えて飲む癖も、治るかもしれない。他にもあるんだろうけれど、もう正直どんな横着を無自覚で働いているか分からない。

ほんと、何言ってんだこいつは、とお思いの方いらっしゃるでしょう。そうなんです。そもそも他人の気づきなんか聞いたってちっとも面白くないうえに、それが当たり前に気にしてる事だと、さらに輪をかけて面白くない。

他人が、運命の変わる瞬間の羽音を聞いた話。なんでこんなに、面白くないんでしょう。私ばかりが、こんなにも嬉しくって興奮しているだけだなんて。