踏ん張りきかないスニーカー

時間がない。なんでこんなに忙しんだろーなー、スマホを見ながらへらへらしてみる。職業に貴賤なし。ただしお給金に額の多少あり。「一日8時間働けば、普通に暮らせる社会を!」の文字が躍るどこかの政党のポスター。よく見かける。この...

in jail

眼鏡くらい好きに曇らせてやれ。箸が転がる程度で可笑しくて、汗染みの一つすら気恥しく、何かのきっかけで、明日には崩れてしまうかもしれない関係におびえて過ごしていた十代の頃を思い出す。私が思うに、私は学窓の被害者だった。誰か...

マイコプラズマ

確かに聞こえた。将来は先生になりたいと言い放つ。その偏狭な悲惨に私は微笑みを返す。シャツが溶けて、古くなったかさぶたのようにぶら下がっている夏。私はどうしてこの煙の中、一人でガスコンロを磨いているのだろう?隣の妻は言う、...

ロストイン板橋

家の中で一人、かくれんぼをするのが好きな子供だった。兄も姉も年が離れており、物心がついてからの、私の遊び相手は私自身だった。かくれんぼは私が根を上げるまで、寝床にいないことに気づいた母が探しに来るまで、だれに気兼ねするこ...

soon crazy

音楽で笑ったことはあるか。トムとジェリーを浴びるように観た頃を思いだせばいい。 何事かは繰り返される。16小節で、それよりも短いスパンで。子供は親の笑う顔を見て、面白いとはなんであるのかを学び、それはちょうど私たちが間抜...

西日差す十字路

「初めての女性と結婚するのだと夢想するような愚かな男だった」というフレーズで、私に大きな衝撃を与えた小説はなんだったろうか。『第四の手』?『熊を放つ』だったろうか、それとも『水療法の男』? 人は一人の人間を元手に、もう一...

毎夜の逢瀬だな

ここんところ毎夜、暴走族の排気音を耳にする。愛知県はけっこう、「盛ん」な地域である。興味のない人やこれから寝入る人にとっては騒音でしかないが、彼らは彼らなりに技術を競っているらしい。ヒゲダンス (もしくは teddy p...

歯噛みする

トラックに立った瞬間、考え得るすべてのゴールが拒絶したくなるほどに恐ろしいものである場合、ランナーはどういった選択肢を取るのだろうか。パジャマ姿でカレーを拵える父の姿。もうすぐ新車を買うそうで、それまでは生きていたいとい...

断線

無理やり引き抜かれて赤く爛れていく手のひらのように君の影に沿って現れたみごとなまでの空洞防波堤の上で誰も啄もうとしなかった魚がゆっくり腐ってくそれ以下のできごとだ、君は俺がトマトにしてきたことに近い残酷だ 鷺が何も持たず...

はあ夕日きーれい

『Factotum』を書いた小説家のチャールズ・ブコウスキーは、晩年まで郵便配達員に従事していたそうである。なぜかビートニクと一緒くたに紹介されるが、彼の作品は遥かに平和的で素朴、浅黒い肌をした祖父の優しくひび割れた分厚...