駅員

男は耳の中まで駅員に包囲されていた。
彼のため息や毛繕い、笑う直前に現れる笑窪は全て駅員のためにあったし、これからもそうであるだろう。
彼の訪れるレストランは超満員、アパレルショップは連日ソールドアウト。
しかし彼が誰かの尊敬を集めたり、一目置かれるなんてことは全くなかったし、彼も自らの軌跡を特段価値のあるものだとは認めていなかった。
目抜き通りのラーメン屋は今日も伽藍堂で、店主がカウンターでスポーツ新聞を読みながら戸口を見つめている日常は、いっこうに変わる気配がなかったからだ。
男は帰る道すがら、いつもその店の赤提灯を横目に見やる。
どうしてこの店が流行らないのか、検討がつかないでいる。
だけど男は、男も駅員たちも、誰一人としてこの店のラーメンを食べたことがなかった。