身体化レギュレーション

もうこれ以上遡る必要のない
歴史のドミナントな出発時点は昨日の夕方
「シンクに落とした包丁が返ってこない」
妻の一言で背広のまま海峡横断の旅が始まる
首が一番、息が詰まるとか発するので
上手に砕いた珊瑚で傷つけて
血に誘われた大きな鮫にそれを預けた
定年まで遊んで暮らせるほどの労災の見込みに
私の心は浮き足立つ
その金で
包丁を買い直せば良いかとはたと思い返したが
物がない時代に彼女の祖母が手に入れたその包丁は
かすかに錫が混ざっているその独特なくすみが
「私の瞳によく似ていて疎ましい、でも離れがたい」
とそんなことを呟いていたのを思い出し
思い出し、
そして

もうこれ以上遡る必要のない
歴史のドミナントな出発時点は昨日の夕方
ガスコンロも肩透かしも一仕事終えた太陽も
全てが整えられていた私の創世神話