腐った首デザイナー

腐った首デザイナーの晃は考えた。手に下げたカサカサと煩い袋にはベーコン、いつもの献立で今日を終わらせてなるものか。抗いたい。彼は少しの逡巡の後ネクタイを片手で掴んで器用に外し、乱雑に袋に突っ込んだ。これでベーコン、お前はある意味アタッシュケースに入れられた書類の一種かのように振る舞うことを俺に許されたのだ。あるいはネクタイに食材としての振る舞いを許した、とも取れるが、ネクタイがネクタイであることはあまり重要ではなかった。内ポケットに仕舞い込んだICチップ内蔵の社員証でもよかった。ベーコンをベーコンから遠ざけたかったのだ。
「逃げろ!ここにいたらいけない」その声は彼の口から発せられたようにも、彼の家路を取り囲むように植えられた樹々が発したようにも取れる、所在の不確かさとは裏腹に肌を震わせるような大声であった。彼はベーコンの入ったカサカサと煩いその袋を、水面から両手で掬い上げた水を天に掲げるようにして思いきり放った。雨に穿たれて不細工で張りのない音を立てるそれが勢いを失って地球にゆっくりと引き戻されていくその様を飛脚だけが見つめていた。彼はそのじつ、蜻蛉でもあった。