真珠供養

経なら俺が上げてやろうか。
しかし疲れ切った体でよくもまぁあんなセリフが抜け抜けと言えたものだ。

私は坊主が嫌いだ。
坊主と釈迦は月とスッポンじゃないか。
坊主が坊主の…私の思う坊主の本懐を成し遂げようと考えたのならば、市街化調整区域のどうしようもなく無個性な寺で袈裟着て胡座かきながら屁なぞ放り出したりしないだろう。
まず日本を出ていく。それか雑居ビルの2階にあるスナックで朝まで人の曲を演奏している。または雑居ビルのB1にあるクラブでレコードを回している。
もしくは、人の展開するすべての会話の滞りを未然に防ぐグリスのような男となって誰からも覚えてもらえず、覚えてもらえないがために忘れ去られることもない状態を永久に維持する者、それになる。

何がしたくて席を立ったのか思い出せず、そのまま腰をおろした。私は膨大な時間を目の前にした時の足がすくむような思いにいまだに慣れず、サイドポケットからウエハースを何度も何度も取り出す。もうこれで89枚目だ。
歩いている人は、歩いていない、とする世迷いごと…もとい「空」の理論は、どういった理屈なのかまるで分からない。なぜならば私はナーガールジュナについて何も学んでおらず、学ぼうともしていないからだ。

心底から理解していることは、スタート地点でこぼれ落ちた…目的を見出して、ゴールを設定してトラックでゲーム開始の合図を待つ私、でない私…ゲームを始めようとしなかった私…彼女が、ゲームを始めようとした私にとってのゴール地点である、ということだけである。