わたしの猫が家に寄り付かなくなった。
朝、玄関を開けると白い靴下を履いた見知らぬ子猫が通るようになった。
茶色い鉢割れ頭の白猫が、みるみるやせ細っていく。
私のまわりで重篤な肺炎を起こしたという人の話は聞いていない。
疫病はいまだ言葉の世界のものである。
言葉ひとつで世界が変容してしまったのか。
猫の世界でもなにか、重大な事件が起きているのかもしれない。
定まる、という状態も言葉の世界の話で、ファンタジーなのかもしれない。
願望が世界を織りなしていて、私は日記を見せびらかしている。
近所のボス猫が弱っているように見える。
もともと白猫だからか、毛が抜け落ちたためか、顔中が赤く糜爛していて、それが目立つ。
一目もくれず、まっすぐ歩いてどこかへ向かう。
今日は雨が強い。
まだ猫は帰らない。
追悼、頭の片隅を横切った二文字。
荷物は少ないほうがいい。