あと4時間で起きて仕込みに臨まなければならないのだが、抵抗する体は酒を口に運びまた口に運び、岐阜のCDショップで手に入れた『moonless』というタイトルのアルバムを流す。眠りたくない夜のために、といったフレーズで勧められ、当時和音の中で調性を決める3度の音というものを明確に拒み避けていた私は、なぜこのアルバムを手にしたのか、その経緯は定かではない。みずから積極的に求めて掴み取ろうとする叙情というものをこの身に浴びてみ、内省してみる。泣くこと笑うこと、必死に身体を動かした結果滑稽な踊りを舞う羽目になることはちっとも恥ずかしいことではないのに、誰しもが月に一回は髪の毛を切ることが当然のように思われるフィクションの世界を生きているために、それらが恥ずかしいことのように思えてしまう。そういえば父の右頬には頭から続く毛の流れとは少し距離を置いて長めの髭が一本、伸びていて、不快に思った記憶に突き当たる。ピアノの独奏が聞こえる。録音された室内の壁の反響から想像される部屋の広さと、それに見合わない8畳ほどの私の自室の反響との違和感に耳をすましている。早く眠らなくては。