人足

暑くてじっとりと、肌着の絡みつくだけの時間が、いつの間にか夏にすり替わっている。
早朝、まだ残っている少し冷たい空気をかき集めているうちに藪蚊が起き始めて、私の腕を耳を一つの文句もなしに刺してくる。滲む汗に気づいて顔を上げると、太陽の全貌が空にあって、2020年に生きる私にとって、近所の屋根越しのこれが日の出だ。
思えば一日中、私は空模様におろおろさせられている哺乳類だ、黄道を見つめ西日に頬を焼き夕映えに涙をやって、バイパスの灯りに汚された、扁平で退屈な夜を迎え入れる獣のうちのひとつだ。
多くの人が克服し、顧みなくなった、ようにみえるものに翻弄されてかかずらって、頭を抱えて思い悩ませることはとても多い。
友人は小さい頃、ニュースキャスターが誰かの訃報を涙一つ流さずに伝えることに猛烈な違和感を覚えたという。
どうして私たちは、日がな遊びに興じていたあの庭を抜け出し、こんな場所に来てしまったのだろう。
移動すること。私たちをこれ以上不自由に思わせることはない。
漕役囚みたいな気持ちで、坂を上り坂を下り少し屈み電車に乗り電車から降りた。
私が自分の身体がとてつもなく巨大で、風にほだされてみるみるたくさんの胞子に分かれて、私の望むあらゆる場所に点在していたい。
たった少しの衝撃で、内にあったヒビから一気に砕け散る器を見ている。