久しぶりに思い出した事

なあ、兄ちゃんには見えるの?俺がさあ俺があのサリンジャー?の影響を受けたみたいに橋の袂でさあ、両足こんんーなにして踏ん張って、サ今から屁でもスンじゃないかってくらい顔真っ赤にしてさあ、長渕剛の乾杯を歌ってるとことかさ兄ちゃんには、見えてんの?えへへほんだらすごい恥ずかしいなァオィ

うん、見えてたよ、見えてたしなんならまんまえで聴いてたじゃん。

私は後ろのポケットに突っ込んでいた財布の厚みに今気づいたかのようにして尻を動かしてみる。

なあ悪いけどさ、俺は帰りの電車賃も持ってないんだよお、そう言えなかったせいで、おっさんはこの後も何曲か歌ってみせ、俺は拍手を伝える心算で、しかし自身には手を叩いているだけだと言い聞かせて、両手をそのように動かした。

瞳が捉えた遠くの家の灯りを、何かの誤作動で蛍と見間違えながら雨の中を歩くことになり、その際の感傷を私は隠し立てしない。しかし逃げ場がないねこの話は。どうしてそんな話を…?