相も変わらず死への恐怖で頭を掻きむしって、わあわあ口走ったりする夜がある。
ガットギターを爪弾いて、アースグランナーを観る息子。
液晶越しに見る、隣の部屋の父の顔。zoomのクラス会らしい。
チャリチャリ言わなくなったキーをポケットに、妻はイオンへ向かった。
作業が滞るくらい、気が狂ってもおかしくない恐怖でもあるのに、私の三十余年の人生で、そういった理由で泣き出したり、パニックに陥っている人を見たことがない。
彼らはどこかへかくまわれているのか。
それとも、この世でただ一人、私だけがこの恐怖にのたうち回っているのだろうか。
だとしたら、私にとって、私以外のすべての人々が狂人である。
みんな、おかしくなっているのだろうか。
お腹を満たすことのないものに、時間を割くことを惜しんでいるのかもしれない。
忙しくしていると、あの恐怖から逃げおおせている気がする。
父が手綱を引く馬に乗り、魔の手から逃げるようにして。なんて綱渡りだ!
恐怖でもないと、私はどこにも移動できないのかもしれない。
類まれな怠け者である。
君の大地に注ぐ酒はないよ。
大きく膨らんで、柔らかくなった無花果を摘みとって食べた。
水のようなものに隔てられた向こうに無花果の存在を感じる、といった程度のかすかな甘みに満足いかず、ブランデーと蜂蜜を垂らして漬け込んだ。
明日にはどうなっているだろうか。
庭の茗荷は蕾を出すだろうか。胡瓜は。枝豆は。
私は草木に生かされているみたいだ。