夕暮れのことを考える。
とにかく寂しいものだった。
電灯がいっせいにパッと、付くタイミングを目にしてしまったとき。
無遠慮なヴォリュームで流れる『遠き山に日は落ちて』の放送が会話を断ち切ったとき。
どこかの窓から漂ってきた、大根の炊かれている匂いが鼻をつくとき。
家路に向かう間、交差点を迎えるたびに友達が一人ずつ去っていくとき。
大人になって、東京に出たとき、ひっきりなしにホームに飛び込んでくる電車が、私から夕暮れを奪った。夕暮れの寂しさを奪っていった。
「夜はこれから。」
狂おしい響きだ。今は誰もいない町。
眠らなかった、今はもう眠っている町。
人間の身体は、夜を一人で耐え抜けるようにできていなかったのだ。
愛知に戻った私を最初に迎え入れてくれたのは、あの寂しさだったように思えた。