空港急行

CDの棚の奥に、取り逃したヤモリの、砂壁をさする音。

世間の話をしたいけれど、自分の体の中を渦巻いて荒れる砂嵐に口封じをするのに忙しい。
結果的に私はボーっとしている、という烙印をぎゅうと押される。

彼の放つ言葉に、彼の吹き込んだ繊細な意味が、例えばおはように込められた悲しみや皮肉が、理解できるようになるまでに、私はかなり時間がかかる。
煙のように形を留めない心を、言葉の鋳型にはめて表そうとするのはとても難しい。ほぼ100%思惑とズレているのは確実で、その程度がひどいか、そこそこか、といった違いはある。
たぶん正解はない。
ひとつの音節で、意味することができる内容は日本語の場合、かなりすくない。舌が転がっている間にどんどんと時間は過ぎる。描いた情景はびゅんびゅん遠ざかっていく。
私は誰の話をしているのだろう?そんな気持ちが起こることはないか。

CDの棚の奥に、取り逃したヤモリの、砂壁をさすった音。