彼はいつ何時でも誰かの視線を感じて、落ち着いてはいられなかった。
しかしその視線の主が他人ではないこと、ともすれば、彼自身のものであることに気がつきつつあった。
昆虫の標本は、そのどれもが翅をむしられていた。空を飛べる間の鳥は脅威だ、アスファルトの上でもがいている分には、鳥たちは神々のような、西の空を覆う雲の輪郭を刹那照らす遠雷のような、気高く恐れ多い、そして畏敬の念を抱くこと不可避な存在に感じられるだろう。
彼の主張。
誰がもがいてんの?
虫が。
そして家の北側にある、もう使われていないはずの焼却炉に標本と古新聞を丸めて投げ込み、慣れた手つきで火をつけた。
もう見なくていい美しさがひとつ増えた、僕の心は穏やかだ。
私は焼却炉の小窓の炎に赤く照らされた彼の頬に、うっすらと生えている産毛がオレンジに輝いているのを見て、見惚れてしまった。
もう一度見たいものが、二度とお目にかかれないかもしれない恐怖は堅牢でどっしりと開かずの鉄の扉のように私の心に巣くい、私に計画を一つ、もたらしたのだった。