「いかがか…」
男は正八面体の瞳を、期待と期待を覆い隠そうとする見栄からくる動揺と8gのケイパーの塩漬けとありとあらゆる不安の煮凝りとで左右に震わせながら訊ねた。いや、正確には訊ねなかった。問屋の首には既に匕首が突き立てられており、男の口にしたものは恫喝とお悔やみの合いの子だった。シジュウカラだけが成り行きを見ていた。
「見るだけなら、まあよかろう。」
かつて問屋を構成していた細胞の群体は、今朝から奮わない身体の具合のせいで視界が霞んでみえると見立て、老眼鏡を何度も上げ下げしつつ餅をついた。もう正月も近い…
身寄りのない男にとって正月とは、カサカサ音を立てるビニール袋のアンサンブル、そのミュートと同義であった。顕微鏡の倍率を上げ、男はすでに事切れた問屋の細胞ひとつひとつに語りかける。
「……」シジュウカラはどこにもいなかった。
