裏返る

テナントが全て撤退した後のがらんとした大きなワンルームで、足元を埋め尽くしていたのはチョコレートの透明な包み紙とバドワイザーの空き缶だった。わたしは尋ねた、彼はどこに?

男は答えた、裏返ってしまったんだよ、彼はもう戻ってはこない。道を歩いていると、知らない曲がり角を曲がった先に、遠い昔に過ごした河川敷が続いている可能性を考えたことはあるか?たしかここからだと、新幹線を使って電車を乗り継いでしなければ、辿り着けないはずなのに…それが目の前に開けている可能性について、考えたことはあるか?裏返ってしまうというのはつまり、てんで知らない通りに出くわす可能性よりも、かつて親しんだ遥か遠くの通りに…それがどれだけ離れていようとも…再び出くわす可能性の方が、高いように感じる非常に主観的で科学的でない、心の逆転現象のことだ。彼は…歩いて行くことは全く叶わないが、かつて長い時を過ごした懐かしい場所へと帰ったのだ。

わたしは包み紙を蹴り上げ、缶を潰してその部屋を後にできたらずっと良かった。