なにかあると水を汲んでくる

つまり、この話には最初から最後まで狂人しか出てこなかったわけ。注釈を付け加える人間が、語り部を含めてどこにもいなかった。彼自身、集中治療室に横たわっていたのだから。 目の開かない仔猫の鳴いているうちは家の鍵を開けることが...

私の友だちはどこに

瞳が、人間の瞳がどれくらいの塩分で永遠に閉ざされてしまうのか知りたくて開いた本に、魚は死なない生物だと言われている、と書いてあり、そういえば捌かれることなく死んでいる魚を見ることがあまりない理由は、海の近くに住んでいない...

アステアに出会う前の

アニアにはどうしても忘れられない言葉があった、彼女の祖父は藤で編まれた椅子をこよなく愛し、背もたれの部分は祖父に取り残された影が今もなおそこに留まっているかのように茶色く鈍い光沢を保っていたのだが、それは今は何も関係がな...

Todd

愛のなんたるかを知った手つきで手紙を書き終える前に寝てしまった子供らと同様に ゴム毬みたいに弄ばれ、いまやビニール袋のクシャという音に怯え、黒ずんだ歯の一本すらも砕かれてしまった親父たちにも 優しくそそぐ雨があるはずだ。...

どうかその通りに

「君たちは、どうかして生まれてきてしまいました。この問題をこれから、解決しなければいけません」 男は物腰柔らかく壇上から述べる 有孔ボード張り巡らされた部屋の中、声がいやによく通る…たしか、六車とか言った気がする 「冒頭...

全ては燃えるもの

雨降りの夜は光の追跡に終始する。 由来を探す。目に映る全ての光の、どこから私の目に飛び込んでくるのかを追い求める。その光がいま、なぜ途切れたのかを見極めるまで私はアクセルを踏むことができない。バンパーに妙な形の凹みを拵え...

レイドバック

「愛してる」って人に伝える回数よりうんこする回数が遥かに多いなんて、そんな世界が成立していることじたいが、そもそもどうかしている! 妻は「そりゃそうやろ」と言う。なんの変哲もない、私にはしかしこの事実が非常事態である。排...

「むかしはこの辺りでも」 「ボラがよく釣れたんだけどな…竹ヒゴに糸と針をつけてさ、晩の残りのメザシの尾でも引っ掛けてりゃ、すぐ」 「ねえ、それっていつ頃の話?」わたしは男に尋ねる。隅々まで皺の刻まれたソフトキャンディの包...