また日記を記し忘れていた。
先月の末は東京・奥多摩へと遠征した。
初めての中央道による上京。
暁光、それを受けて赤く黒く燃える山々、濃霧、ビル以外に空を狭められた、新鮮な驚き。運転しながら、短い間隙を縫って窓外の景色に見惚れてしまった。アップダウンが激しいため、かなりのガソリンを消費してしまった。経済的な合理性を考えるなら、静岡から上京した方が断然よかったけれど、恵那から甲府までの道のりには、また訪れたくなるような魅力が溢れていた。
会場である奥多摩の廃校では、運営の方々はじめ、多くのお客さんに好意的に迎え入れられて、とても有意義に過ごすことができた。
『愛知県清須市のコーヒー豆屋です』という、コーヒーに関するネームバリューのまるで無い土地をアピールした一文を、私はムテの自己紹介文の冒頭に必ず入れているわけだが、今回は少なくない方々から、「私も愛知県出身なんです」といったお声がけをいただけた。
ムテの出店における出立ちはとにかく情報量が多い。
特異なハコ型の什器、おかしな写真のショップカード、大きすぎるヤカンと湯気、唐揚げでも入っていそうなコーヒーカップ、粗雑な字によるメニュー表、雑多に積まれたドーナツ、アディダスのダサいスニーカー、煙管を吸う私。
どうしてこうなったんだろう?
思うに、私は何かの枠組みから全速力で逃げている。これで髪型がマッシュでメガネをかけて白シャツを着ていたら(まあ以前の私である)、「コーヒースタンドのお兄さん」止まりであって、使い古された過去の枠組みであり、私はそこから全速力で逃げている。
誤解を招かぬように言っておきたいが、私は、私を目に留めてくれた、多くの人々から提示される枠組みから逃げているわけではない。それは、みなさんどうぞ、思い思いの枠組みを、私に当てはめてみてください。私は当てがわれてたさまざまなフレームに合わせて形を変えていきます。私は人を安心させたい。
そうではなく私は、他でもない私自身が自分に当てはめようとしている枠組みから逃れたがっている。
おそらく一番の敵は私自身なのだ。
実際のところ、他我の間に商売という営みが横たわっていない限りは、誰のことも気に入らないし、誰に対しても決して承伏しない、厄介極まりない、とてつもなく好戦的で高圧的な私自身から逃れたがっている。
難儀な性格をしているか?
でもあんただってそうなんだろう?
なにをニコニコ笑っているんだ。