ざわめきが遠ざかり、どれだけ耳を澄ませても骨の軋みしか拾えない。
Sondre Lerche を聴きながらキーボードをたたいている。ノルウェーで彼が、どのような待遇にあるのかは全く知らない。顔が良いから、出たての頃は、アイドルやポップスターのようにして迎え入れられたのだろうか。我ながらつまらないことを考える。
彼の楽曲との出会いは、よりにもよって一番、攻めた、というか、気のふれたようなアルバム、『The Sleepwalker』のオリジナルサウンドトラックが最初だった。
簡単に心は奪われた。
spotify のリンクでも張りたいところだが、無粋なので、やめておく。聴きたい方は検索してみてください。
たぶん、GEZAN はいたるところで、彼の音楽的アイディアを参考にしている。ときどき、それに気づいて…気づいてというか、私の頭の中で両者の発想に似通ったところを見つけて、鼻息で湿ったマスクの内部で、頬がだらしなく緩んでいる。
『Two Way Monologue』のような爽やかで優し気な歌声に、どことなく陰のあるダブの使い方、少し突飛で変化に富んだ曲構成が印象的なポップスを歌っていたソンドレは、こっち側の尾根を降りることに決めたんだなと、最新作を聴きながら、一人のシンガーが十数年のうちに経験しうるさまざまの音楽的変容(変態?)のうち、もっとも過激で辛味の抜けない実を結んだ姿を目撃しているような気持ちになる。
Vanessa Carlton というシンガーがいる。
いつ頃だろう、確か私が11,2歳くらいの頃だろうか、それはそれは、神様からの贈り物かと思うくらい、綺麗なピアノリフから始まる『Thousand Miles』という楽曲を歌っていた女の子である。瞬く間に世界を虜にした。ような気がする。有線をBGMにしているやる気のないレストランではいまだに耳にするもの。
彼女を一発屋だと思っている方は日本では多いかも知れない。
ヒットチャートや何気なく見ているテレビでは、お目にかかることは少なくなったかもしれないが、2013年にリリースした『I’ll wait for you』はぜひMVとともに、楽しんでほしい。
一人の女性が、デビューアルバムで世界に名を得て、メインストリームの渦中にあって起こり得るすべての人間の出来事の中でもひたむきに、音楽にたいしてなんどもなんども接触を試み続けた、その集大成がそこにある。
あるような気がしてならない、じゃない。あるんだ。
ミュージシャンは法人格ではないからね。