見つめている

「――ぼくが憎むのは、安寄席の持主だ。ぼくは人が、人間を堕落させるのには忍びない。」
河原乞食という言葉がある。芸能者、見られるものを蔑んで呼びならわす言葉である。
テレビをぼーっと眺めているときの、妻や子供の目はとても、ぞっとするもので、人に向けてはならない冷たいものである。
見ることはできないが、きっと私の目も同じように曇りよどんでいるのだろう。
友人たちと三浦の海へドライブに行ったとき、運転をしている友人がルームミラーをのぞき込むたびに、後部座席に座る私は、錐で居抜いてくるような彼の目におじけづいたものだった。
私たちは口語を、メールでおくったりLINEでやりとりしたりしている。
本当にありがとう、感謝しているよ、元気が出た、大好きだよ、私たちは普段口にする際にちょっとだけ勇気が必要な言葉を、口ではなく、人差し指を動かしていとも簡単に伝えている。瞳はやはり、ほのかに青白く光る液晶を曇りよどんだままで。