雪が滑り出して川面が干上がっても、びくともしない資産をお持ちの男が言った
なんせ、私は一位なんだぜ。皆の記憶にも新しいだろう、語り種となったその一局は数年に及び、ダイジェストがダイジェストを呼び、戦果は限りなく短い時間で伝えられるまで端折られた。優良なダイジェストをキュレートするものの出現は後を絶たず、今度は優良なキュレーターを紹介するダイジェストが現れ、再び刹那を目指してトリミングされていく。その繰り返し繰り返し…。
私の戦果が目指したのは空気のようなアドヴァタイズで、今やドアノブの肌触りから、マッチに塗られたリンの代替物から、「私は一位である」との情報が伝わってくる。だが世界の方が一向に応答を返さない。番となるものがあらかた死に絶えた晩秋に土から這い出た蝉になった気分だよ。
ある日、私は気がついたんだ。人間はもはや、戦果に優劣をつける事にくたびれ果てていること、空気のように漂うダイジェストを受信はしても感受する時間を残されていない事に。
私は叫んだよ。けれどその叫びは人々の鼓膜を震わせはしても、受理してもらえないんだ。時間がないから、突き飛ばしても拳ひとつ、舌打ちひとつぶつけてはくれないんだ。