丹陽にて

男はブコのフルフェイスいっぱいに涙を湛えて女を見つめるが、彼女が誰なのかどうしても思い出せない。その脇でガチャガチャと無遠慮な音を立ててスチール缶をより分けている老婆が詩人の手によって描かれ、センダンの木を思わせるその節くれだった手の甲を赤黒い血がズルズルと流れ、いままた流れる。フェンスに繋がれた犬がそれを見、刹那、耳の中にノミ認め脚で掻き出そうとする。鎖がチャランチャランと軽薄な音を立て、自動改札機のピンポンという、音の余韻。

殴られて歪に膨らんだ頬のような愛が必要かもしれない。