ビロードスズメ

明日の天気を言い当てられない。
ビロードスズメと呼ばれる蛾の仲間が好きだ。
好きであるということが触ってみたい気持ちを意味しない。
翅をとじたときの、裾に向けて弓なりに広がっていくさまは美しい。
液晶越しに見ると、昼間見た時とは違い、「まがまがしさが際立つ昆虫」の枠組みにおさまってい、そこから微動だにしない。
あれは笹だっただろうか、この世のどこかにしがみついて。
地球に引っ張られるに任せて、たたずんでいるその脚が草の繊維を引っ掻いて、傷を残している。ように見える。
思ったよりも重そうだ。
刹那、ジャスミンやクサギ、忘れさられたぬか床、知らない人の吐しゃ物、私の身体が到底受け入れられない匂いの数々が鼻腔をかき回して、そのまま居座って、たいそう難儀した記憶が、ミラーボールからこぼれて帰ってこない光のように私を襲う。
本は要らないな。
確証は得られていない。だがこれは確信であった。
私は私の身体を冒すさまざまのものと、また再び対峙しなきゃいけない。
端的に言って、とても嫌だ。