茫洋とコンビナート

なくした海に来て、欠伸が喉を落ちていく音。
冬に徳島に行けそうである。嬉しい。
海の近くの町に住んだのは、徳島が初めてだった。

1,2分ほど歩けば汽水エイが泳いでいて、自転車で少し行けば、靄の向こうに和歌山を臨む紀伊水道の、穏やかだが退屈しない海があって、背中には眉山が、のべっとそびえていて、あのコーラルピンクの夕暮れや、うんざりするほど聴かされた鳴り物の無節操な響き、棕櫚とヤマモモの木、盆あたりからのすだちのやり取り、眼球を刺してくる夏の照り返し、無遠慮な風…。
西に抜けても、南に抜けても、まったく別の世界が構成されていて。
私が過ごした3年間、あれは白昼夢だったのだろうか。
あれだけ人々が、季節に支配されて、無意識に支配されている町に住んだことがなかった。

私の小さな願いは、ムードにたやすく握りつぶされてしまう。
私の徳島行きも、もしかしたら結実しないかもしれない。
雨が降れば、水になって、水の歌をうたう。
いまは嬉しさに、蛇口をいっぱいに開いて、水浸しになって揺蕩っていよう。