苦しいことはない

せっかちで気が早い私の、破壊衝動に似た、…似たというか、明け透けに言って壊してしまいたいという欲望は、美しいと見染めたものに近づきたい、一つになりたい、または母の腹の中に戻りたい気持ちの変奏である。

昨日今日と、立て続けに月と雲の関係が完璧な夜空を目にしたものだから、実り少ない恋に痩せ細っていく人のような心持ちを思い出してしまったのかもしれない。

しかし完璧な、という言葉で何事かを褒め称えるとき、私たちは一体なにと照らし合わせているのだろうか?

流麗な旋律にまとわりついて来るような低い声、耳を疑うような下品なセリフ、そのリフレイン。私は声をあげて笑い、飛び跳ねて少し押し黙り、あたりを伺う。机の下に隠れて、私に見つけてもらう瞬間を待ち焦がれながら息を殺す息子の瞳に宿る光に、私は心当たりがある。